現在の「庭小屋」にいたるまでの物語

投稿:2018/12/02

プロローグ

フィトライフは2003年に二人の庭師と一人のフィトセラピスト(植物療法士)が創業した会社です。薬用植物や有用植物、精油などを扱う植物療法の視点を取り入れながら、新しい「庭」を作ることが当初の目標でした。フィトライフの事業テーマである「植物のチカラを暮らしに」というフレーズはこうして生まれました。

庭師とは、土と木、石と水を扱う職人とも言えます。つまりは、造園と樹木の剪定・管理をする仕事が事業ドメインでした。つまり、当初から小屋を作ることを目標にしていたワケではありません。竹垣などは作りますが、本格的な木工は本来庭師の仕事ではありませんし、ブロック積みなども庭師の領域でないと思います。

元より自然素材ばかりを扱う造園は、建築のように精緻な図面で表現されるものではなく、一本一本の樹木、一個の石を眺めながら「世界」を編むような側面があります。つまり、制作者と設計者が分離しにくい構造になっています。「一つの石をどのように据えるのか?」という問題は、図面で表現することは出来ず、その石と相対して決められていきます。庭師の方々は、一つの石に「石の顔」を探そうとします。建築の世界ではあり得ない行為だと思います。

そのような私たちが、どのように「小屋」に出会ったのか、なぜ「庭小屋」を作るようになったのか、そのあたりの経緯を書いてみたいと思います。

和風庭園にスチール物置を置きたい

ある日、庭造りの仕上げ作業を行なっている時、お客様から庭にスチール製の物置を置きたいというご相談をいただきます。その他にも、ゴルフの練習用ネットを張りたい。さらに、小さな物干しを置いて欲しいと云われました。これには相当堪えました。しかし、そこで暮らすお客様には大切なアイテムであることは明白です。

公式で書けばこういう感じでしょうか?【美 ≠ 物置 × ゴルフネット × 物干し】まるで、私たちが作ってきた世界が崩壊するような気がしました。

 

そこで、私たちは木製のゲートを作ることにしました。このゲートの背後に、ゴルフの練習用ネットと物干しとスチール製の物置を配置することにより、「一つ一つの日用品」と「庭としての美しさ」の共生を図りました。

 

ウッドデッキを遮蔽して欲しい

施工前

また、ある日、お電話を頂き、伺うとご家族で作られたウッドデッキがありました。

大変上手に可愛く作られておりましたが、道路から丸見えで困られていました。ご相談を受けたもののどのように解決すべきか大変悩みました。樹木を植えることが第一に考えられますが、その場合常緑樹を列植しなければならず、成長も待たねばなりません。

半年ほどお時間を頂き、プランを作成し遮蔽を作ることにしました。

 

施工後

ウッドデッキにパーゴラを設置し、ウッドフェンスなどで道路側からの視界を遮りました。

 

そして完成後、「自分で学校の上靴を洗う子供にしたいので、子供のためのシンクを作って欲しい」という新たなご要望をいただきました。

 

水やり用の蛇口も取付け、私たちにとって初めて作るシンクが完成しました。

「庭」を作れない場所をなんとか有効活用したい

施工前

ある日、モデルガーデンをご覧いただいたお客様からお電話を頂きました。

場所は裏庭です。床下収納のため、勝手口と窓が段違いになっており、さらに、2階部分が張り出しているため、植物を植えることもできない環境でした。また、フェンス向こうは旗地になったお隣の通路のため、窓が開けにくいという事情もありました。ゴミ箱の置き場として利用されていましたが、リブブッロク囲まれた場所はゴミの集積場所でもありました。

屋根があるため、庭にも出来ず、良い利用方法が思いつかないということがお悩みの根本でした。

 

お時間を頂き、小さなお子様が3人もおられましたので、子供達の遊び場と遮蔽を兼ねた空間をご提案しました。

 

施工後の外部

 

施工後の内部

壁につけたポケット

寄木風のデスク

床はウッドデッキにし、更に二段にすることで段差を解消しました。施工後、安全な子供の遊び場ができたことを大変喜んで下さったことを、記憶しています。

狭い敷地に家族の夢を詰め込んだ庭を作りたい

ある日、建築予定地に伺いました。これから家を建築されるにあたり、ソト空間を思い切り楽しみたいとお考えになり、建築前にご相談くださりました。

限られた敷地内に、駐車場、ビオトープ、菜園、ウッドデッキ・・・・あまりのご要望の多さにその夢の実現は無理ではないかと思いましたが、「庭を二階建て」にできないかと考え、「2階建ての庭」を制作しました。

2階部分は、鉄骨で躯体を組み、ウッドフェンスで囲まれたウッドデッキスペース。

1階部分は、駐車場、小屋・ガーデンドア・洗濯干し場・ビオトープ・植栽スペース。

 

小屋を作ったきっかけは洗濯物を隠すためでした。ついに、庭のために小屋を作りました。

庇は物干し台の役目も兼ねています。

 

小屋の奥のビオトープ

2階には、5Mを超える大きなジューンベリーが突き出て、2階で果実が取れるようにしています。お子さん達が果実を収穫した画像を送ってくださいました。

あいあいパークのモデルガーデン展示に於ける小屋の試作の数々

2008年 廃材を使って作った「ミノムシハウス」

フォークリフトのパレット廃材を利用した外観です。屋根は草屋根にしておりました。制作中に「みのむしみたいね」と言われて小屋の名前を命名しました。

 

2010年 空しか見えない庭「空庭」

「ソト空間でパジャマで過ごしたい」とあるお客様の言葉に着想を得て作ったのが、「空庭」です。「空だけが見えるソト」という空間を作りました。

 

2012年 現在の小屋のプロトタイプとなる「庭小屋Anne」

この小屋には一つのメッセージを込めています。それは小説「赤毛のアン」の中に出てくる言葉です。いつも前向きなアンを支える「想像力」という言葉です。暮らすことと庭を作ること。この二つを結ぶ「想像力」として庭小屋は存在したいと願っています。

おわりに

庭にはいろんなスタイルがありますが、庭造りのテーマは「美」の追求に替ることはありません。そのほか、利便性や安全性、メンテナンス性なども考慮されますが「美しくない庭を求める」ことはあり得ません。庭の広さには大小がありますが、小さな坪庭から回遊式庭園までそのどれもが、ある「世界」、ある「風景」の中に潜む「美」を追求し続けます。

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